ふれしゃかフェス - 北樹出版の大学教科書

北樹出版の大学教科書

第2回「生きづらさにふれる」

ケイン樹里安×上原健太郎×栢木清吾×中村香住 2019.11.9(土)@ジュンク堂池袋店

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この日は『ふれる社会学』トークイベントふれしゃかフェスの第2回目。前日の第1回目の代官山蔦屋書店イベントの熱気を帯びつつ、編者のケイン樹里安先生、上原健太郎先生に「差別感情にふれる」ご執筆の栢木清吾先生、「レインボーにふれる」ご執筆の中村香住先生を交え「生きづらさ」について語りました。
なお、実際のフェス中はみなさん「ですます調」で話されておられます。また、「レポート」の性質上、細かな言い回しはカットしたり、内容も圧縮したりしております。
それでは、イベントの雰囲気が少しでも伝わりますように。どうぞお楽しみくださいませ!!

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~『ふれる社会学』の内容にふれる~

◆編者の先生から

大学の教科書の体裁ではあるが、外へ発信していきたい本になるよう心掛け、そのためにもカバーデザインもこだわった。本書では既存のテキストのように、古典的な理論を最初に置くことを避けた。ビビッドな事例を並べ、最後に社会学の古典的な理論にふれてもらう構成にした。
学生が今何を考えているのか?何に悩んでいるのか?共通点はあるのか?という思いで書いた。多くの教科書は大学院生まで使える、という設定で書かれているが、そのことによってどれだけ多くの大学生読者を見捨ててきたのか、本書はそういった学生読者が挫折しないよう、高校生でも読めるようにという思いでつくった。
また今回のトークイベントテーマは「生きづらさにふれる」。「差別はいけません」という、いかにもシンプルで「分かりやすい」メッセージからは抜け落ちてしまいがちな社会的現実に目を向けるために、「生きづらさ」というくくりで話すことにした。そのため「生きづらさ」というくくりで話すことにした。

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~『ふれる社会学』とその一歩先にふれる~

◆中村先生

「レインボーにふれる」では、『LGBT』に対する人々の捉え方についての疑問、第1波フェミニズム~第3波フェミニズムを概説、ダイバーシティという言葉の一人歩きって怖いよね、という視点からグローバル資本主義にも言及した。例えば、レインボーに関する商品では、東京ディズニーリゾートでは2017年の東京レインボープライド直前の時期に、何も説明することなく、レインボーのTシャツを売り出していた。ただ、ほかの国のディズニーリゾートではレインボープライドコーナーが設けられており、通年で販売を行っている。また、スターバックスコーヒーでは、東京レインボープライドでドリンクを購入するとレインボーリボンを手に巻いてもらえる。これらは企業としてダイバーシティに取り組んでいますよというアピールであり、イメージアップにつながり利用している、という側面もある。レインボーは商売として成り立っている。ただ、これは必ずしも買ってはいけない、という意味ではない。それによって多くの人々に認知される、という側面もある。プライド商戦の持つの両義性といえる。

◆ケイン先生

セクシュアルマイノリティの話を講義でしようとすると「知っている」と言う人が多い。だが、ジェンダーやセクシュアリティについての知識について「知っている」かというと、相当微妙なところがある。きびしい文字数のなかではあるが、中村さんに基礎的なことも歴史的経緯もふくめてかいていただけたのはありがたかった。一方で、「教えてあげるよ」というスタンスのテキストではもう成り立たない。教えるという行為は対話を閉ざしてしまう、一緒に考えるためのツールが必要。そのため、考え出すための本を目指した。
初めての授業は456名に週2回というもの。第1回目の講義では、古典の話をしたら、半数が寝てしまった。そのため、学生さんたちの目の前にあるスマホから話をしましょう!ということから始めた。そして一緒に考える機会を増やそうとした。それが、第1章がスマホの章である理由。
そして、本書を社会人の方々にも読んで頂きたい。人と関わる時の工夫にしてほしい。例えば、本書にふれておくと、「いらん事言ってしまった」という時に気づける。

◆栢木先生

ある事柄について「知っている」と言ってすましてしまう学生が多い。たが、「知っている」からこその問題がある。たとえば、人種差別主義者は単に「無知」だから差別している、というわけではなく、その差別は特定の「知識」に基づいて行われている。だから、誰が何を知っているのか、なぜ知っているのか、などを細かく検証するが大切。
情報の流通の仕方が変わってきたので、学生が知っていることと、教員が知っているポイントをつなぎあわせていかないとならない。

◆上原先生

どういう形で授業をつくるか悩む。本書は教科書への橋渡しになるような、専門書につなげられるような入り口、入門書になるよう心を配った。


~『ふれる社会学』から社会へつなげる~

◆上原先生

社会人の方々にも読んで頂きたい、ということに関しては、消防士の方々への研修をした際、強く思ったことがある。その際、ホームレス(ホームレス状態にある人々、以下「ホームレス」)の調査研究をもとに、ホームレスは自立支援法ができたにもかかわらず、生活保護を受けなかったり、ホームレスを続けたりする人々がおり、彼らには彼らなりの多様な理由があることを話した。研修後のコメントでは、話を聞いた後もなお、ホームレスは怠け者だと書く方々も多かった。なかなか、意識、捉え方は根深いと感じた。ただ一方で、ホームレスの方々への見方が変わったという方もいた。

◆栢木先生

昨今の大学にはキャリアセンターというものがあって、学生をどこかの会社に入れる、ということが大学の業績になってきている。だが、「就職」に関して本来大学がやるべきなのは、社会で生きていくために必要なこと、例えば不当な扱いを受けた時の対応等を考えられるようにすることなのではないか。受け皿を提示したり、うまくいかなかったりした時の逃げ口を示す、それも社会学の役割だろう。
また、就業することを「社会人になる」という言い方をするが、あなたは生まれた時から社会のなかで生きているだからずっと社会人であるし、仕事を得ないと社会人になれないのではない、と日ごろから学生たちに伝えている。ついでに言うと「女性の社会進出」という言葉も使うな、とも学生によく言う。じゃあ、それまでどこにいたんだ?っと。まず、みんなが社会の中にいる、というのが発想のスタートでなければならない。

◆上原先生

大学にはキャリア教育という科目がある。本務校のキャリア科目でも、最初はいろいろな生き方があると提示し、必ずしも新卒就職にこだわる必要はない、と1~3年まで教える。それなのに、4年生になったとたん、新卒での就職指導にかわってしまうという矛盾。第3章「就活にふれる」では、社会の就職活動におけるしくみの違和感に基づき執筆をした。就職活動で自己アピールを最大限し、それで落ち続けると自己否定されているような気持ちになってしまう、就活を続けていると学生さんたちが疲弊していくのが感じられる。昨今問題になっている就活うつ、自殺を生み出すような社会のしくみ自体を疑ってみる必要がある。就活のルールにのる、のらない、を俯瞰的に見ることが大切。

◆栢木先生

社会学の役割は、ほかの人の立場で見た時に物事がどのように見えるのか、という力を培うこと。たとえば就活も、人事の人の目線から見たらどういう人が欲しいか、あちらが求める役割を自分は演じ続けられるか、と俯瞰でとらえられると少しは気がやすらぐかもしれない。

◆ケイン先生

多くの学生さんは、就活の問題にしても、いじめの問題にしても、原因を自分が悪いからだと思ってしまいがち。それは、自分のせいだと思わせる仕組み、罠があるのでは?と思ってほしい。その罠なのでは?と思うことが社会学の役割なのではないか。

◆中村先生

社会構造を分析し、問題は構造的な問題だ、と考えられることは社会学がもたらす救済。例えば、女性差別の場合には、不平等の構造に気づいてはいるが、うまく男を転がせば良い、女性らしさを戦略的に生かしているのだ、という意見をもち、彼女たちのイメージする「フェミニスト」に対して怒りを抱く女性たちがいる。メイドカフェのフィールドワークをしていると複雑性にふれる。メイドカフェは女性性を承認されたいのだという人、かわいいといわれたい、内面化された欲望、それで賃金が発生している。逆襲としての戦略点も見える。これからいろいろなものが見えてきそうなフィールド。

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~現代の社会の風潮、「強く生きる」礼賛にふれる~

◆ケイン先生

「現代社会では強く生きていけることを称賛されがち。自己啓発本が売れているということにもつながっているのでは。このように、生き抜くスキルを個人に求めすぎていること自体が罠なのではないか。
生きづらさを生む人種化、家父長制の問題等々、自分もひっくるめた社会構造の問題である。

◆栢木先生

社会的弱者の問題、というものはグラデーションのように皆が抱えている問題でもある、と気づいてほしい。ある特定の人たちだけの問題ではなく、社会全体の問題でもあり、何かの拍子で自分の問題にもなるかもしれないし、またすでに自分も問題に加担しているかもしれない、と考える必要があるのではないか。
例えば移民に関わる問題にしても、人手不足や少子高齢化など日本社会が抱える問題が発端にあり、それへの安易な対処療法として移民の呼び寄せを進めてきたという状況があるのに、移民が来たからさまざまな社会問題が発生したかのように、と語られる。原因と結果が逆になっている。すべての人に関わる社会構造の問題が一部の人々に責任転嫁されている。


~質疑応答~

Q:女性向け風俗店を経営している方から
お店は対話型を大切にしている。自己理解をしてほしいという女性が多い。『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』という漫画が話題になったが、自分の話を聞いてもらえる時間が大事なのではないかと思う。
Twitterは言いっぱなしで、つながるようでそうでもない。

A:▼ケイン先生

自己理解、アイデンティティは変わりうる。現代社会では、こういう人であれ、と押さえつけられているのかもしれない。だから、イベントを通じてつらい思いや問題意識をもっている人たちと対話できればと思う。トークイベントは書籍販促イベントだとは思っていない。

A:▼上原先生

学生さんから相談をよく受ける。その際、あなたにとってプラスになることは言えないかも・・・と言って話を聞く。学生さんたちからは複雑な家庭の話を聞くこともある。そんなとき、大変だったね、としか言ってあげられない。それでも学生さんたちは御礼を言い、少し元気になって帰っていく。そういった状況を考えると、聞くことこそ大切で、診断や分析はいらないのだな、と感じる。診断は逆にしんどくなることなのだと思う。

A:▼栢木先生

何か抱えている学生さんたちは多いはず。そして言葉にさえ出せない、言うと関係が壊れてしまうと恐れている人たちも多い。だから、こういうイベントは大切な場だと思う。面と向かっては言えないけれど、イベントに足を運んでくれたら、イベントを通してメッセージを伝えることもできる。イベントはそういう悩みや問題を抱えている人に伝えられる場として大切にしている。
対話のためにSNS、オンラインでしかけをつくっていければと思う。『ふれる社会学』から広げ、みんなで話すきっかけづくりをしたい。また、ほかの本とセッションやコラボすることにより新たな広がりやつながりをつくりたい。

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Q:文筆業の方から
「魂にふれる」の章がとても良かったし、もっと読みたいと思った。韓国のセウォル号沈没事故では、亡くなった生徒の名前をはじめとして個人のさまざまなことが公表された。実体化していた。それに対して、津久井やまゆり園での殺傷事件では、遺族が名前の公表を断った。対応の違いは魂の捉え方の違いでもある? 韓国では、亡くなった人を全面に出して、社会を変えようという問題意識となったのでは? 日本ではひとつのかたまりとしての魂の捉え方?

A:▼栢木先生

稲津先生の代弁はできないが、死者との関係や死者同士の関係をどう考えるかというのは、社会学がずっと取り組んできた古典的課題のひとつ。たとえば宗教社会学という分野がある。それを学説史的にさらうのではなく、神戸の震災という現代の出来事を起点に考えようとしているのが「魂にふれる」の章の意義だと思う。
魂の捉え方という点でいえば、日韓の差というより、事例ごとの検証がいるのではないか。京都アニメーションの事件の被害者を実名報道するかどうかという議論があったように。


Q:男性のジャニーズファンについて研究をしている方から
『ふれる社会学』を読んで読者にどういうふうになってほしいと思っているか。

A:▼ケイン先生

潜在的、顕在的にも生きづらさをもっている。しんどいこと、言葉になること、ならないこと。それだけではなくて、この本にふれながら、それこそ「面白いこと」や「楽しいこと」も、面白がりながら考えてほしい。


Q:編集者の方から
各章で授業ができそうだし、そんなカリキュラムがあればいいな、と思った。シリーズもできそう。
社会学をやって生きづらさが緩和されたことはありますか?

A:▼中村先生

私個人は救われた。小学校の時に同性の子に初恋をした。母に相談したら、それは同性愛っていうんだよ、と言われた。そして祖父に『プロブレムQ&A 同性愛って何?――わかりあうことから共に生きるために』(伊藤悟・大江千束・小川葉子・石川大我・簗瀬竜太・大月純子・新井敏之著、緑風出版)という本を買ってもらった。そこからいろいろ興味がわいて調べたり、考えたりしていった。社会学との出会いだった。社会学で見方の扉が開いていった。

A:▼栢木先生

社会学は生きづらい状況から自由になる知識を与えてくれるかもしれないし、理念的なことを言えば、知識というのは誰でも平等に共有にされうるもの。

A:▼上原先生

いろいろな人がいることを気づくことができる。自分は学部時代体育会だった。講義でまじめに前列に座っている人たちを馬鹿にしていた。学問は面白いかも、と気づいて大学院に進学したら、大学院に来るような人たちは体育会にいる人たちを馬鹿にしていたことがわかった。お互いディスりあっていたのだな、ということに気づいた。

A:▼ケイン先生

社会は変えられる。なぜなら、社会は今までも変わり続けてきたから。社会学は役に立つ学問だと思っている。ただ、それは事後的にしかわからない。社会学は社会にふれる手立て。


以上、駆け足ですが、第2回フェスレポートでした! 本日のキーワードは「しんどいのは自己責任ではなく社会の構造の問題」「対話の重要性」「社会は変えられる」「社会学は役に立つ!」でした。
ご参加の皆様に少しずつでも個々の「お土産」をもって帰って頂けていますように・・・。



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